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番外編 柚原さん

ちょうどそのとき、杖をついた腰の曲がったお爺ちゃんが前を横切ろうとした。 「お爺ちゃん危ないよ‼」 前に出ようとしたら彼に止められた。キキキー。耳をつんざくブレーキの音が辺りに響き渡り、一瞬時間が止まったかのようにし~んと静まり返った。最悪の事態が脳裏を過り、怖くてなかなか目を開けることが出来なかった。 「お前らが何を企んでいるかくらい予想がつく。命が惜しかったらそこにいる男とさっさと失せろ」 怒りに震えるこの声は……そうだ、柚原さんの声だ。 おそるおそる目を開けると、車椅子が横に倒れていて、お爺ちゃんに変装した柚原さんと男性が睨み合い、一歩も引かず対峙していた。男性の手には拳銃のようなものが握られていた。対する柚原さんは杖だけ。丸腰だ。 「どうした手も足も震えているぞ」 くくくと笑いわざと男性を挑発する柚原さん。 「うるさい。うるさい」 男性が喚き散らしながら銃口を柚原さんに向け引き金を引こうとした。 「あれ?なんで?」 「安全装置の外しかたも分からないのか」 「うるさい」 男性が躊躇したその一瞬の隙を柚原さんは見逃さなかった。銃を取り上げると杖でみぞおちをひと突きにした。 「うっ……」 両手で胸の辺りを押さえながら呻き声を上げうずくまった。 「お前も動くな」 お婆ちゃんに向けて柚原さんが獲物を狙う鷹のような獰猛な目付きで銃口を向けた。

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