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番外編 譲治と達治兄弟

「いててて、また腰が痛くなってきた」 お婆ちゃんが腰を擦りながらむくっと起き上がった。 「今の若いもんは気が短くて困るよ。よっこらしょ」 ぴんと腰を伸ばすとすたすたと歩き出した。 「どっちが譲治で達治なのか知らねぇが、石山の正体はチャイニーズマフィアのヘイノンの幹部、ダオレンだ。血も涙もない冷酷な男だ。一緒にいるシェドもダオレン以上に冷酷で危険な男だ。もう何人も殺している。全面戦争ともなれば、上田に使い捨ての駒にされ犬死にするのが見えている。ふたりともなかなかいい面構えしているじゃねぇか。変装も上手い。うっかり騙されるところだったぞ。将来有望な若い芽を踏み潰すほど俺たちは鬼じゃない。譲治に達治、お前らにその気があるなら、うちで面倒をみてやってもいいぞ。鳥飼もいるし、住む場所もある。旨い飯も三食付きだ。どうだ?」 彼の説得に男性が動揺する素振りを見せたけど、お婆ちゃんが男性の首根っこをむんずと掴むとずるずると引き摺って行ってしまった。 「どけ!」 弓削さんとフーさんを睨み付け牽制する声はお婆ちゃんの声じゃなく、男性の声に変わっていた。 「腰抜けの昼行灯じゃなかったのか。ばりばりの現役じゃねぇか。聞いてない」 恨み節ともいえる言葉を吐き捨てて、 「見せもんじゃねぇぞ」 患者を威しながら奥へと消えていった。 「あとを追う必要はない。自分らの身の振り方くらい自分たちで決められる」 あとを追おうとした若い衆を止めた。

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