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番外編 可愛い娘のためなら鬼にでも蛇にでもなれる

「オートバイからわざと距離をおいて、俺たちのあとをずっとつけてきた。miki生花店は駅前のアーケード通りにある中華料理・華の隣に店を構えているが、二日前の深夜に何者かに盗まれたと昨日の新聞に書かれてあった。壱、帰るぞ。長居は無用だ」 蜂谷さんが壱さんに指示したあと、小さな声で、柚原、お前の腕なら確実に仕留められるだろう。弓削、フーあとは頼んだ。そう呟いた。 O葬祭会館の屋根の部分に人影が見えたような気がして思わず振り返ると全身黒ずくめの人が腰を屈め駐車場に向けて銃を構えていた。 「ねぇ遥琉さん、屋根に人がいる。柚原さんなの?」 「可愛い娘のためなら鬼にでも蛇にでもなれる、それが親というのものだ。今回ばかりは橘も危険だからとヤツを止めたが、娘を守れるのは俺だけだと言って聞かなかった」 「弓削もフーもだ。姐さんのことになると人が変わる。フーに新婚なんだ。旦那を悲しませるなと言っても、マーを守るのは俺の使命と言って聞かない」 バックミラーをチラッと見た蜂谷さんの表情が急に険しくなった。 「胸に被弾してもハンドルを握り続けるとはな。正気の沙汰じゃない。壱、後ろから突っ込まれるぞ。左に曲がれ。その先、右だ」 蜂谷さんの的確な指示で何とか危険を脱し、無事に組事務所に辿り着いた。

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