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番外編 哀しいひと

陽葵の寝顔を眺めているうち眠ってしまったみたいで、気付いたら彼の腕枕で横になっていた。 「ごく普通の家庭に産まれていれば、善栄に関わらなければ、平凡だけど穏やかな人生を歩んでいたのかも知れない。彼も私も子どもが嫌いだから、子どもの愛し方が分からない。このままだと奈梛を殺すかも知れない。まゆこはまわりにそう漏らしていた」 大きな手で髪を撫でられると、身体をそっと優しく抱き締められた。 背中に回される腕の強さと、胸一杯に吸い込んだ彼の香り。 幸せな気持ちで心が満たされるの感じながら、片手できつく抱き締め返した。 「誰からも愛され大切にされる未知を、まゆこはしだいに妬むようになったのだろう。未知の幸せをぶっ壊して、自分が味わった地獄のような苦しみと絶望感を与えようと企てた。まゆこも、誰かを愛せる幸せを感じることが出来れば、また違った人生を歩めたのかもな。同情するつもりは微塵もないが、いつみ同様哀れな女だ」 やりきれない虚しさが彼の心のうちに広がっていた。

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