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番外編 哀しきひと
「未知さん、お客さんが組事務所でお待ちかねですよ」
陽葵を抱っこし、夕ごはんを食べる子どもたちの賑やかな笑い声を聞いていたら橘さんに声を掛けられた。
「お利口さんにして待っててね」陽葵に話し掛けながら、橘さんの腕のなかにそっと寝せて、弓削さんとフーさんと一緒に組事務所に急いで向かった。
「未知さ~~ん」
僕を待ち構えていたのは南先生だった。
「どうして南先生がここに?」
「卯月さんから陽葵ちゃんの一ヶ月健診を一週間ずらせないかって電話があったのよ。何かあったんじゃないか、心配になってそれで様子を見に来たの。入るだけで大変だったのよ。汗びっしょりよ」
南先生がハンカチで額の汗を拭った。
「産後の体は満身創痍。陽葵ちゃんのお世話だけで手一杯なのに、未知さん、よく頑張ったわね」
「僕は別に何も」
首を横に振った。
「明後日私の病院で一ヶ月健診を受けると見せかせて父の診療所で受けるってどうかしら?水曜日で休診日だし患者さんはいない。父の診療所でも三ヶ月健診と十ヶ月健診、それに予防接種は受けられるから、出来ないことはないと思うのよ。どうかしら?」
「上澤先生に迷惑を掛けるわけにはいきません」
「言い出しっぺは父よ。 だから気にしないで。なるようにしかならないから」
南先生に力強く言われそれまで不安な気持ちでいっぱいだったけど少し軽くなったような気がした。
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