1978 / 3256

番外編 哀しきひと

みんなに世話になるから挨拶だけはちゃんとしようと思い立ち事務所のドアの前まで来たのはいいけど、やはり緊張してしまい、そわそわしながらあたりを行ったり来たりしていたら、 「姐さん」 弓削さんに声を掛けられた。 「みんなに世話になるから、挨拶だけしようかなって思ったんだけど、お呼びじゃないよね?みんなの士気が下がったらそれはそれで大変だもんね。ごめんなさい。やっぱり家に帰ります」 踵を返そうとしたら、 「姐さんからひとことをもらったらみな俄然やる気になります。森崎も姐さんに会いたがっていました。組事務所内終日禁煙中なのでどうぞ入ってください」 弓削さんがドアを開けてくれた。 臨戦態勢に入ぴりぴりとした近寄りがたい空気に包まれている。てっきりそう思ったけど……。 (あれ?) 予想に反し、朝御飯のお握りを頬張りながら飲み物を片手にみんな和やかに談笑していた。 「未知さんお久し振りです。元気そうで良かった」 森崎さんが笑顔で駆け寄ってくれた。 「すっかりご無沙汰してしまいすみません」 慌てて頭を下げた。

ともだちにシェアしよう!