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番外編哀しきひと
「蜂谷、新参者のお前が未知さんの警護に大抜擢されたんだ。名を上げるチャンスだ。卯月さんに感謝しないとな。もしヘマしたら卯月さんだけじゃなく、橘と柚原と弓削に半殺しにされるぞ。ここにいれなくなるぞ」
「おぃおぃ。脅してどうすんだ」
「別に脅していない。正論を言ったまでだ」
「はっきり言えばいいだろう。姐さんが大好きだって。相変わらず素直じゃねぇな」
「弓削、余計なことは言うな」
「余計なことじゃないだろう。地竜と裕貴とこそこそ連絡を取り合っている癖に」
「はじめて聞いたぞ。森崎、詳しく教えてもらおうか?」
蜂谷さんがぽかーとして、三人の会話を聞いていた。
「蜂谷さん、大丈夫ですか?」
恐る恐る声を掛けた。
「昇龍会や直参の組は上に立つ者が自分の舎弟も他所の組の舎弟も同じくらいに可愛がり、面倒をよくみる。だから、みな期待に答えようと努力する。そこが他のヤクザとは違う。マル暴にいたころ、伊澤さんに耳にタコができるくらい言われていたんだ。オヤジも弓削さんも根岸さんも自分の組だけじゃなく、他の組の構成員の名前と顔までちゃんと覚えている。誰にでも出来ることじゃない。だから、みんなに慕われて頼りにされる。人手が足りないと言えば、すぐに他の組の者が駆け付けてくれる。組の垣根を越えて仲がいいのはオヤジの人徳の賜物です」
「ハチ、オヤジの人徳じゃなく、姐さんの人徳だ。そこ間違えんなよ」
弓削さんの声が飛んできて、蜂谷さんがギクッとした。
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