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番外編 哀しきひと
乗るひともいないのに各階でなぜか止まるエレベーターに蜂谷さんと森崎さんが口を一文字に結び眉をひそめた。
「四階で下りよう。俺たちは先に行く」
「お前と子どもたちが大変だろう」
「膝が笑うとでも?そんな柔じゃない。子どもたちはウーに任せよう」
森崎さんがウーさんをチラッと見上げた。
「分かったって」
「本当かよ」
「あぁ」
四階に入っているのは菱沼ビルディングだ。そこでウーさんが戻ってまで待たせてもらうことにした。
菱沼ビルディングの社員や上の階から何人か応援に駆け付けてくれた。
ナオさんたちは警戒しながら慎重に階段を下りていった。
ーなにかトラブルでもあった?ー
通話中になっているスマホから七海さんの声が聞こえてきてきた。
「誰もいないはずなのにエレベーターがなぜか各駅停車状態になっているんだ。ウーがしきりに監視カメラの向きを気にしていた。すでに誰かが侵入しているかも知れない」
ー厳重な警備を敷いているのに……菱沼組と鷲崎組《うち》の舎弟たちを疑いたくはないけど、もしかしたら内通者がいるかもー
「その可能性もなきしもあらずだ。七海、森崎が連れてきた舎弟たちの名前と、どういった経緯で鷲崎に入ったか簡単でいいからから教えてくれ。あと、最近なにか変わったことはなかったか。ほんの些細なことでもいい。教えてくれ」
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