1987 / 3255

番外編 哀しきひと

「匂うな」 蜂谷さんがぼそっと呟いた。 「おやっさん、ハチです。至急調べてもらいたいことが……はい、お願いします」 電話を掛けた先は伊澤さんだった。 ー養子とはいえ九条組の組長の息子なら鷲崎も口出しは出来ないなー 「森崎も連れて来るつもりはなかったなかったが、出掛ける直前になって行きたいとごねたらしい」 ーハチ、くれぐれも気を付けろよー ーハチ、俺の大事な娘とひまちゃんに傷ひとつ付けたらただじゃおかねぇからなー ーいちいち言わなくてもその分かっている。ハチ、切るぞー ブチッと一方的に電話が切れた。 「おっさんと根岸さんはまるで夫婦漫才をしているみたいだな」 蜂谷さんが苦笑いを浮かべた。 「そろそろナオと青空が出発する時間だ。姐さんも移動しましょう。手首は大丈夫ですか?痛みが我慢できないならひまちゃん抱っこしますので、遠慮なく言ってください」 「ありがとう蜂谷さん」 ちょうどそこへウーさんが戻ってきた。 「カシラ」 「そうか、ありがたい」 「モリサキ」 「一人残らず連れていったか。良かった」 言葉の壁があるのにちゃんとコミュニケーションが取れていることに驚いた。 「蜂谷さん、ナオさんたち大丈夫でしょうか?」 「森崎が運転する車で幼稚園と病院に向かったから大丈夫だ。組長の息子はもう一台の車で後ろを付いているみたいだ。病院には若い衆が先回りしているから好き勝手なことは出来ない」 「それなら良かった」 「ナオの恥ずかしがり屋と、未来の人見知りが功を奏した」 蜂谷さんとウーさん、そして鞠家さん。 みんなに守られ階段をおりはじめた。

ともだちにシェアしよう!