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番外編哀しきひと

【岳温泉 岩の湯】と書かれた白いワゴン車が横付けされていた。 「父が車もチャイルドシートも知り合いから借りてきてくれた。どうぞ」 蜂谷さんが周囲を警戒しながら後部座席を開けてくれた。 「陽葵ちゃんまだ頑張ってますね」 ハンドルを握る壱さんの表情が緩んだ。 「壱さんちょっと匂うかも知れないけどごめんなさい」 「気にしてませんよ。陽葵ちゃん、オムツが汚れて気持ち悪いと思います。早く交換してあげて下さい」 「壱さんありがとう」 上澤先生の診療所までは十分と掛からない。 ウーさんが陽葵をあやしながら慣れた手付きであっという間にオムツを交換してくれた。 「ウーさんシェ シェ。お腹が緩いのかな?うんちがゆるゆるだね。オムツ多めに持ってきて良かった」 陽葵をチャイルドシートに乗せ、何気に隣の車線を見ると、高齢者マークが付いた軽自動車が目に入った。運転しているのは男性。助手席にも男性がいて、ふたりは黒いニット帽を目深く被りマスクをしていた。よくよく見ると後部座席にも誰か乗っているようだった。 「ハッサン、イチ」 ウーさんが声を上げた。

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