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番外編 哀しきひと
「まゆこと岩谷兄弟かも知れない。壱、運転に集中してくれ」
「はい、分かりました」
駅前交番の前の信号機を通過しようとしたとき、右にウィンカーを出していた軽自動車が急加速し、強引に前に割り込んできて、急ブレーキをかけた。
恐らくこう来るだろうと軽自動車の動きをあらかじめ予想していた壱さん。慌てることなく冷静にハンドルを切り間一髪で衝突を免れた。
「絶対に捕まらないという自信があるとしか思えないな」
蜂谷さんが胸ポケットに手をすっと入れた。
「壱、発砲してくるかも知れない。気を付けろ」
「はい」
挑発するかのように蛇行運転を繰り返し、何度もハザートを出し、減速する軽自動車。赤信号で止まると、後部座席のドアが勢いよく開いてランニングシャツに短パン、サンダルを履いたがたいのいい若い男が下りてきた。
「てめぇー、なんちゅう運転しているや。喧嘩売っとんのか?下りろ‼」
わめき散らしながら持っていた木刀を振り回しながらこっちに向かってきた。
「じきに信号が変わる。相手にする必要はない」
蜂谷さんがバックミラーやサイドミラーを何度も確認していた。
「壱、いまだ‼右折レーンに入れ。急がば回れだ」
「はい」
後ろからバスが来ていたけど、壱さんは躊躇することなく右にウィンカーを出しハンドルを切った。
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