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番外編 哀しきひと

「姐さん、車酔いしていませんか?」 「はい。大丈夫です」 陽葵はこんな状況でもいたってマイペース。じーと自分の手を見つめたり、ぱたぱたとあんよをバタつかせたりして、ご機嫌だった。 大通りから細い脇道に入ると雑居ビルと昔ながらの古い民家が道路沿いに並んでいた。車一台がやっと通れるくらい道幅が狭い。一方通行の標識があるから対向車が来ることはないけど、 「逆走して突っ込んでくるかも知れない」 蜂谷さんも壱さんも強い警戒心を抱いていた。 「来ませんね」 「そうだな」 「もしかしたら、先に診療所に着いて手ぐすねを引いて待っているかもな」 「十分有り得ます」 蜂谷さんの的確な指示のお陰で迷路のように入り組んだ道でも迷子になることなく上澤先生の診療所にたどり着いた。 駐車場にあの軽自動車はなかった。 「見付かる前に診療所のなかに入りましょう。壱、指示があるまでこの先にあるコンビニエンスストアで待機しててくれ」 「分かりました」 「くれぐれも用心しろ」 「はい」壱さんが診療所の入口ドアの前に車を横付けしてくれた。 下りようとしたらウーさんに「ストップ」と止められた。 「サキイク。マッタ」 ドアを手で開け、辺りをキョロキョロと見回しながら車から下りようとしたら、ぱん、と1回だけ乾いた音が静かな住宅街に響き渡った。

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