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番外編哀しきひと
「譲治テメェー、どういうつもりだ」
ランニングシャツの男が木刀を肩に担ぎ大声で喚き散らしながら姿を現した。
「務《つとむ》兄貴、相手は伝説の殺し屋に、元デカに、チャイナマフィアの用心棒だった男だ。勝ち目はない。今ならまだ間に合う。降伏しよう」
「あ?千載一遇のチャンスを見逃せってかな。ふざけんな!」
男が眉を吊り上げた。
「未知さん早く」
診療所のドアが開いて、南先生に手招きされた。陽葵をチャイルドシートから下ろそうとしたけど焦れば焦るほどベルトをうまく外すことが出来なくていたら、
「ダイジョウブ」
ウーさんに手伝ってもらいなんとか無事に陽葵を下ろすことが出来た。
ウーさんに背中を押され、陽葵を抱っこし中に入った。
「待って、蜂谷さんと壱さんがまだだよ」
「ユズイル。ミンナイル。ダイジョウブ」
ウーさんが通りの向かい側にある雑居ビルを指差した。
黒塗りの車が次から次に駐車場に入ってきて、あっという間に男たちを取り囲んだ。
「良かった無事で……」
南先生が安堵のため息をついた。
「南、安心するのはまだだ」
上澤先生が鋭い視線を外に向けた。
「卯月さんが言ってただろう。男より、女に注意しろってな。たく、人様の迷惑も考えないで困った連中だ」
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