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番外編 哀しきひと
上澤先生がちらっと見たのは受付だった。
「度会と話しをしててやっぱり気のせいじゃない。そう確信した。青空も綺麗な姉ちゃんに化けることが出来るんだ。女も男に化けることが出来る」
半年前に寿退社した看護師の鍋山さんの代わりに、東京から地元に戻ってきた厚海さんという四十歳過ぎの男性が看護師として診療所に勤務するようになった。
「口数は少ないが愛想はいい。勤務態度も真面目で子どもに優しく接してくれる。母親が診察しているときは誰に頼まれなくても子どもの面倒をみててくれるから、安心して診察や検査を受けることが出来ると好評だったんだがな……」
そこで言葉を止めると、
「南、勘づかれる前に検診を終わらせよう。卯月さんに連絡をしてくれ」
南先生に小声で伝えた。
【厚海さんに化けている可能性大】
南先生はスマホをポケットからさっと取り出すと、片手で入力し、何事もなかったように平静を装いすぐにポケットにスマホをしまった。
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