1997 / 3256

番外編 哀しきひと

「奈梛を真っ先に始末し、その罪を彼に着せるつもりだったのに、あやみが余計なことをした」 怒りが激しい波のように厚海さんの全身に広がっていった。 「あやみはアパートにひとりでいる奈梛のことが心配で何度も様子を見に行っていた。あの拉致事件が起きたときも、あやみはアパートのすぐ近くにいた。どんな悪党でも奈梛から母親を取り上げてはいけない、あやみは自作自演の事件を起こしたあんたを最後の最後まで庇おうとした」 「おめさん一歳児を置き去りにして遊んでたのか?そだに子供が嫌いなら避妊するなりすれば良かっただろう。あやみは自分が生まれて来なければ良かったと、自分を責め続け今も苦しんでいるんだぞ。なんとも思わないのか?」 「五月蝿い‼五月蝿い‼黙れ‼黙れ‼なにも知らない癖に‼」 顔を真っ赤にし喚き散らしながら上澤先生の背後に素早く回ると、首に腕を回し、袖のなかに隠し持っていたナイフを喉の前で突き立てた。 「卯月未知、そのガキをさっさと寄越せ。さもなければこの口喧しいくそじじぃの喉をかっ切るぞ‼」 「老い先短いんだ。煮るなり焼くなり好きにしろ。思い残すことはない。南、弓削、未知さんと陽葵ちゃんを連れて早く逃げろ」 上澤先生が大声をあげた。

ともだちにシェアしよう!