2000 / 3256

番外編 ワンオウ

「パソコンが起動しないみたいで、会計は後日改めて、ということになりました。帰りましょう」 「蜂谷さん、遥琉さんと弓削さんは?無事なんですよね?」 「ふたりとも無事です。安心してください。じきにここに来ます」 「それなら良かった」 ほっとし大きく息を吐き出した。 「姐さん」 「マー」 椅子から立ち上がろうとしたらウーさんと蜂谷さんに止められた。視線の先にいたのは、渡辺さんや他の刑事さんたちに伴われ診察室から出てきたまゆこさんだった。 「妙に落ち着いているな」 蜂谷さんが鋭い眼光でまゆこさんを睨み付けながらぼそっと呟いた。 「柚原、野次馬のなかに挙動不審な人物はいないか確認してくれ。これで終わりじゃない。まゆこはまだなにかを企んでいる。ながはらマタニティークリニックから逃走した岩谷兄弟の弟が紛れ込んでいる可能性も十分にあり得る」 まゆこさんの目の動きを監視しながら、袖のなかに隠してあるマイクに向かって小声で話し掛けた。 診療所の玄関前に横付けされた警察車両に向かってゆっくりと歩くまゆこさんは、下を一切向かず薄笑いを浮かべながら前をしっかりと見ていた。手錠を嵌められた手元も隠さず堂々としていた。 「……あやみ?彼女がこんなところにいる訳ないだろう」 蜂谷さんが驚いたような声をあげた。

ともだちにシェアしよう!