2004 / 3282

番外編 ワンオウ

「防弾チョッキを着ていたからたいした怪我はしていない。こんなの掠り傷だ。姐さん、心配を掛けてすまない。本当に大丈夫だから」 気丈にも笑顔を見せる弓削さん。 「そんなこと言っても……」 肩から落ちそうになっていた上着を掛け直すと、 「ありがとう」 黒革の手袋を嵌めた弓削さんの大きな手がそっと重なってきて、包み込むように握り締められた。 「逃走するためにまさか自分の腹を痛めて生んだ娘を盾にするとはな……」 「これがマインドコントロールの怖さだよ」 右手に包帯を巻いた蜂谷さんが姿を見せた。 「ナオも無事だった訳だし、自分の身の振り方くらいわきまえているだろう」 柚原さんが戻ってきた。 病院の帰り、ナオさんの乗る車は先導する車の後ろに付いて走っていた。いつもと違うルートを走っていることに気付いたナオさん。森崎さんの手に指でSOSと書いて知らせた。運転手は森崎さんに止まれと言われても指示に従わず、逆にアクセルを強く踏みこみ、暴走をはじめた。 何台もの車にぶつかりながら、信号を無視し暴走を続ける車を、パトカーを体当たりさせて止めたのは渡辺さんだった。自分も同僚の刑事に至近距離から肩を撃たれ負傷しているのに。

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