2011 / 3281

番外編 福田さんの息子さん

「お出掛けですか?」 玄関で靴を履いていた弓削さんに橘さんが声を掛けた。 「あれ?部屋にいたんじゃあ」 「柚原さんは遥琉からSOSがあり現場に急行しました」 「なんで俺に言わないんだ。こうしちゃいられない。場所はどこだ?」 「怪我をしているんですよ。大人しくしていて下さい」 「こんなの掠り傷だ。たいしたことはない」 「弓削さん」 橘さんが語気を強めた。 「鴨が葱を背負って行くようなものですよ。もし万一芫さんに見付かり連れていかれたら最後。もう二度と未知さんに会えなくなるんですよ。弾よけの仕事も出来なくなるんですよ。それでもいいんですか?」 「それは嫌だ。絶対に嫌だ。姐さんの弾よけは俺の天職だ」 「それなら大人しくしていて下さい。弓削さんには弓削さんにしか出来ないことがあります」 「朔久の化けの皮を剥がすことが先決だ」 「そうです。頑張ってください」 俄然やる気になった弓削さん。意気揚々と組事務所に戻っていった。 「未知さん、ナオさんのお見舞も大切ですが、まずは自分の体を労ってあげてください。みんなに心配を掛けまいとわざと明るく振る舞っているとしか私には見えませんよ」 「橘さん、あの……あれ、なんで?」 悲しくもないのに涙が次から次に溢れてきた。

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