2012 / 3281
番外編 福田さんの息子さん
手や指だけじゃない。
顎や唇まで震えて止まらなくなってしまった。
「……あの刑事さん……笑っていた」
目をぎゅっと閉じた。
毒のある、あざけるような薄笑いを浮かべていた。
「あやみさんも刑事さんも狩りを楽しんでいたようだった」
現実から目を背けるように首を横に振った。
「蜂谷さんも壱さんも撃たれて、すごい音がして、前のガラスも横のガラスも割れて……」
鼻をずずっと啜った。
「記憶が曖昧でよく覚えていないけど、気付いた時には彼と弓削さんとウーさんが身を挺して僕と陽葵を守ってくれていた。ハチも壱も大丈夫だ。彼の声と、陽葵の泣き声が聞こえてきて、それでようやく我に返ったの。橘さん」
すがるように袖にしがみついた。
「僕が願うのは大好きな彼と子どもたちと平穏無事に暮らすこと。日々の何気ない生活とほんのささやかな幸せ。それを願うのは罪ですか?いけないことですか?」
「罪ではありません。いけないことでもありませんよ。幸せになるためにみんな必死で生きているんです」
橘さんが宥めるように頭を撫でてくれた。
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