2015 / 3282

番外編 鬼女

たまに彼に怒るけど、いつも優しく笑顔が絶えない橘さん。こんなにも怖い顔をする橘さんを見るのがはじめてで。困惑してしまった。 「鳥飼さんがあやみさんも引き取り責任を持って面倒をみる。一人前にちゃんと育てる。そう渡辺さんに伝えました。でもあやみさんは我を失い、自分の名前も、自分が誰かもすべて忘れていました。失敗したら自殺するように指示されていたんでしょうね。あやみさんは逮捕されたとき隠し持っていたカッターの歯で首を切り自殺を図りました。緊急搬送された病院で捜査員が目を離した隙に着ていたタンクトップを脱いでそれをひも状にして自らの手で首を締めました。自分の娘をマインドコントロールして暗殺者に仕立てるとは。母親としてあるまじき所業。あってはならないことです」 橘さんの声は怒りに震えていた。 「あやみさんは?」 最悪の事態が脳裏をよぎった。 「意識不明の重体です。非常に危険な状態です。鳥飼さんがあやみさんに付き添っています」 「奈梛ちゃん、お姉ちゃんと一緒に暮らせるかもって鳥飼さんから聞いて、飛び上がるくらい大喜びしたと思う。まゆこさんは家族の絆だけじゃない。姉妹の絆さえも断ちきった。なんでこんなひどいことが出来るの?あやみさんも奈梛ちゃんもお腹を痛めて生んだ子なのに……」 あどけない寝顔ですやすやと眠りはじめた陽葵の顔を見つめた。

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