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番外編 にしゃは悪くねぇ
「俺がヤクザになったのは、久弥を一人前に育てるためだ。久弥にはカタギとしてまっとうな仕事に就き、ヤクザとは無縁の人生を生きて欲しいと思っていた。だから、高校を卒業したら上京して料理人になりたいと久弥に言われたときは反対しなかった。二度と福島には帰らない。兄ちゃんとも会うつもりはない。頼むから縁を切ってくれ。久弥は一度も振り返ることなく上京した。しゃでに嫌われているのが分かっているのに、久弥のことが心配で、俺は縁を切ることなんて出来なかった。ずっと一生久弥のあんにゃでいたかった。だから裕貴さんに久弥のことをそれとなく遠くで見守って欲しいと頼んだ。俺のエゴが結果的に誉に目を付けられることになってしまった。あのとき縁を切っていれば久弥を巻き込むことはなかった。カタギでいれたのに、俺が久弥の人生を壊した。一人前の料理人になって自分の店を持つ夢さえも奪ってしまった。俺は最低なあんにゃだ」
弓削さんは誰にも相談することが出来ず、ひとりで抱え込み、ずっと苦しんでいた。
一番側にいたのになんで気付いてあげられなかったんだろう。そんな自分が不甲斐なくて。悔しくて。腹が立った。
「にしゃは悪くねぇ。それに未知さんも悪くねぇ。ふたりして自分を責めるな」
「斉木先生の言う通りです」
橘さんが宥めるような口調で言いながら、背中を擦ってくれた。
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