｢未知、驚かないで聞いてほしい。壱には倅がいた。誰だと思う？」 ｢そんないきなり聞かれても困るよ」 ｢そうだよな。ごめんな困らせて。未知の困る顔が見たくてついつい意地悪したくなるんだ。許してほしい。壱の倅は譲治と達治兄弟だ」 ｢え？」 一瞬なにを言われたか分からなかった。 ｢楮山や上田に命令されたとはいえ未知を襲ったことは重罪だ。そう簡単には許されることじゃない。でも譲治と達治兄弟がヤクザになったのはやむにやまれない事情があった。ふたりは楮山に騙され、いいように利用され、汚れ仕事ばかりやらされていただけだ。妹の治療費を肩代わりして、生活の面倒をみてくれた楮山に恩義を感じ、恩を仇で返す訳にはいかないと黙って従っていた。妹を自殺に追い込み植物状態にしたのは楮山と相楽だ。ようやく真実が明らかになり達治兄弟は上田と袂を分かつことを決めた」 譲治さんは菱沼組が保護したから、上田さんもそう簡単には手を出せないだろう。行方不明になっている達治さんは上田さんが放った追っ手から逃げ回っているみたいだった。捕まれば口封じで殺される。譲治も達治も知らなくてもいいことを知りすぎた。彼がそんなことを話していた。