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番外編 桜舞う日、俺は天使に出会ったんだ
五月に一太が生まれて、翌年はじめて迎えた春。お祖父ちゃんに桜の名所に連れて行ってもらったんだっけ。
その時、知り合いだという三十歳前後の男性を紹介された。彼は信用していい男だ、と。
当時は男性が怖くて顔を見ることがどうしても出来なくて。下を向いて挨拶をした僕に男性は、いいよ、無理しなくても。きみにこうして会えて良かった。咎めることなくそう優しく声を掛けてくれた。
その時のその声をどこかで聞いたことがある。
あっ、そうだ……!
間違いない。
お兄ちゃんの声だ。
なんで今ごろ思い出したんだろう。僕はその時にお兄ちゃんとはじめて出会ったんだ。彼に出会ううんと前に、お祖父ちゃんはお兄ちゃんと引き合わせてくれたんだ。
お祖父ちゃんは心に深い傷を負った僕を気遣い、尊兄さんと同世代のお兄ちゃんをあえて秦さんの息子とは紹介しなかった。
そしてもうひとつ思い出した。それはとても大事なこと。
一太は人見知りが激しくて、お祖父ちゃんや秦さん以外の、初対面のひとに抱っこされると必ずギャン泣きしていた。それなのにそのときはなぜか全く泣かなかった。それだけじゃない。にっこりと微笑んで、頬をぺたぺたと触りながら、一太のほうからにこにこと笑顔で話し掛けていた。
赤ちゃんには不思議な力が宿るもの。
一太には分かっていたんだ。
抱っこしてくれたひとが赤の他人じゃなくて、ママのお兄ちゃんだってことが……。
「陽葵、ちょっと待っててね」
鼻を啜りながら、いてもたってもいられずお兄ちゃんに電話を掛けた。
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