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番外編 譲二さんの頼み事
蜂谷さんにじっと見られて、
「お、俺らも違います」
若い衆が蛇に睨まれた蛙のようになってしまった。
「疑って悪いが、譲治お前の仕業か?」
「俺は余所者だ。違うって否定しても、どうせ俺がやったって決めつけて、こっから追い出すんだろう」
不適な笑みを浮かべ挑発的な態度を取る譲治さん。
「黙っているってことは当たりか?これだからおっさんは大っ嫌いなんだよ」
まわりに聞こえるようにわざと大きな声を上げた。
度会さんが、まぁ~確かに白髪 はあるし老け顔かも知れないが、ハチはまだ三十代だ。おっさんって呼ぶのはちいと早いぞ。ぶつぶつと独り言を言ってたら、
「あらあら、仲がいいのね」
紫さんが両手をぱちんと叩いた。
「どこがですか」
「そうです」
「喧嘩するほど仲がいいってよく言うでしょう。それに貴方たちには仲良くなれる共通点があるでしょう」
ぎくっとするふたり。
「今どきその年で童貞なんて貴重よ。ほら、仲直りの握手をして。譲治、ハチはこう見えてもつい最近まで元マル暴のデカだったのよ。人を見る目はあるわ。信用していい男よ」
「マル暴のデカ?この人が……嘘だろう」
譲治さんがぎくりとして震え上がった。
「それとね譲治さん、蜂谷さんは菱沼組の将来を担う大事な幹部なのよ。ちゃんとさん付けで呼びましょうね。あと、言葉遣いにも気を付けましょうね」
「はい、すみませんでした」
紫さんが険悪なムードを一瞬で変えてくれた。さすがだ。
「なんでまたデカを辞めたんですか?」
「寿退社だ」
「へ?」
真面目な顔で答えた蜂谷さんに、譲治さんは意味を理解するまでしばらくの間きょとんとしていた。
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