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番外編 譲二さんの頼み事

橘さんに手伝い、台所で子どもたちの朝ごはんの準備をしていた。 「遥琉を兄貴と慕う人は大勢いますからね。それに顔も広いですし。ヤクザ社会は包んだ金額で器量を見られるんです。ミエから気張る方も多いんです」 「香典が五十万なんてざらだ。義理場は全国各地から親分衆が集まる、いわば社交場だ。安目は売れない。姐さん、後ろ」 柚原さんに言われ後ろを振り返ると、一太にエプロンを掴まれ、つんつんと引っ張られた。 「どうしたの?」 「いいから、いいから」 そのまま居間へ連れていかれた。 「ママ、しーだよ」 一太が人差し指を口の前に立てた。 「たいくんとここちゃんね、かなたくんママをじーとみてる」 藍子さんの遺影の前にちょこんと座る太惺と心望。一太の言う通り微動だにせず、瞬きもせず、藍子さんの遺影をじっーと見つめていた。 「あやみさんがあそびにきたのかも」 一太が小声で話した。 「まさか、そんな訳……」 ないとは言いきれなかった。 「奈梛ちゃんは火葬場だよ」 「なやちゃんととしがおなじだからまちがったのかもしれないよ」 「そうかも知れないね」 仏壇の前に白い靄がかかりはじめ、誰かが立っているような、そんな錯覚に襲われた。 不思議と怖くはなかった。 「なんかさがしものしてるのかな?」 「なんで分かるの?」 「キョロキョロあちこちみてるよ」 あやみさんにとって大切な物といったら……。思い当たるのはひとつしかなかった。

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