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番外編バイチー
「まだ七十代だ。まだまだ若い者には負けない。生涯現役。そう豪語していたあの親父がな、足腰が弱くなった。疲れやすくなった。物忘れが酷くなった。儂も年を取ったんだなって、茨木さんに愚痴を漏らしていた。遼禅みたく心がときめくこともなくなった。残りの人生はただ枯れていくのみ。親父は老いていく自分の姿を心たちに見られたくないのかも知れないな」
お義父さんが人知れず悩みを抱えていたことをこのとき初めて知った。
遼禅さんは三十歳以上も年下の女性と一緒に暮らしている。籍は入れてないから、内縁の奥さんになる。遼成さんと信孝さんと龍成さんの三兄弟が父親の三度目か四度目になる結婚に猛反対しているみたいだった。
「あのね遥琉さん、信孝さんが橘さんに、遼禅さんの内縁の奥さんが後妻業の女じゃないか、用心深い女でなかなか尻尾を出さないんだ。このままいったら縣一家も、家屋敷もすべて根こそぎ持ってかれる。奏音くんがいずれは相続する縣家の大切な資産を守る手立てを教えてほしい、そんなことを相談していたの。ごめんなさい。もっと早く言うべきだったよね?」
「そんなことないよ」
にこっと微笑むと頭をぽんぽんと撫でてくれた。
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