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番外編 若林さん

「若林、きみは知りすぎた。消されるぞ。これは決して脅しではない」 「彼はやさしい人だよ。顔は怖いかも知れないけど、口べたであまり喋らない人だよ。ほら、よく言うでしょう。人は見た目で判断するなって」 「若林、一度冷静になろう」 「副社長まで彼を悪く言うんですか?彼はそんな人じゃない」 心配する彼と和真さんに噛み付く若林さん。そこへ現れたのは久弥さんだった。彼に誉の化けの皮を剥がせるのはお前だけだ。ヤツの目を覚まさせてやってと頼まれたみたいだった。 「好きになった男を信じたい気持ちはよく分かる。でもな、恋に盲目の状態になっていると、駄目な男性もよく見えてしまう。自分の目を曇らせてしまうものだ。些細なことも極上の愛の言葉に聞こえるし、周りが見えなくなる。同棲している男に騙されているじゃないか、いいように利用されているだけじゃないか、和真の忠告も聞く耳を持たなかっただろう。久弥は誉の本性を知っている」 駄々をこねる子どもを宥めるように落ち着いた声で若林さんが納得するまで辛抱強く話し掛けた。 「分かりました。彼の話しを聞きます」 「そうか、ありがとう」 「ご飯、食べながらでもいいですか?」 「もちろんだ。久弥、お前も夕飯まだだろう。一緒に食べよう。ちいと狭いが我慢してくれ」 彼が久弥さんを手招きし、隣に座るよう促した。

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