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番外編 若林さん

根岸さんから連絡が入ったのは夜9時過ぎ。 ー先を越された。部屋のなかはしっちゃかめっちゃかに、めちゃくちゃに荒らされていて足の踏み場もないくらいだ。火を付けようとした形跡が残っていたー 「まただ」 若林さんがポツリと呟くと足元に置いてあったリュックサックを持ち上げ、膝の上で両手で抱き締めた。 「またとはどういう意味だ?」 「彼がいなくなって二週間くらい……かな?十回くらい空き巣に入られて。実は昨日も……あ、でもそれは未遂でした」 「は?多すぎだろう。サツにはちゃんと連絡したか?」 「はい。昨日は玄関のドアをこじ開けようとしていた不審な人物を、パトロールしていたお巡りさんが見付けてくれて、声を掛けると一階に飛び降りて逃走したそうです。引っ越せばいいんだろうけど、全財産、といってもたいした額じゃないけど、ほとんど彼に持っていかれたから通帳の残高もニ千円しか残ってなくて。給料日まであと二週間、ニ千円でどうやって生活しようか、それしか頭になくて」 若林さんは辛い胸の内を包み隠さず打ち明けてくれた。 「なんでもっと早く言ってくれなかったんだ。相談してくれば給料の前借りだって出来たはずだ」 「新婚の副社長にも、会社にも迷惑を掛ける訳にはいきません。騙されたのは俺なんですから。俺が全部悪いんです」 若林さんが唇をぎゅっと噛み締めた。

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