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番外編 伝説の男
「宋、さっきから聞いていればいい気になりやがって。図に乗るなよ」
「いたいっ」
宋さんにすかさずデコピンを三連打で食らわせたその人物は蜂谷さんでもなく鞠家さんでもなく柚原さんだった。
いつからいたんだろう。気配を全く感じなかった。
ふぎゃ、と宋さんがうずくまった。
「それほどお前ら出入り禁止になりたいのか?姐さんが仲良くしろって言ったのに、それを否定するとはいい度胸だな」
じろりと睨み付けた。
「そうか。お前だったのか。額に爪の形に青あざが残るで有名なデコピン男は……てっきり都市伝説だと思っていたが、まさか実在したとはな」
床の上で嬉しそうに目を輝かせた。
「卯月といい、お前といい。ここにいれば退屈しなくてすみそうだ」
「お前じゃないぞ。柚原さんだ。それと卯月じゃない。オヤジだ。ほら」
青空さんが右手をすっと差し出した。
「柚原ってもしかしてあの柚原か?」
「そうだ。怒らせるとマジで怖いから気を付けたほうがいいぞ」
「肝に命ずる」
宋さんの手首を掴むと自分のほうに引っ張って起こしてあげた。
「お握りが無事でなにより。じゃあな」
上機嫌で手を振りながら宋さんは足取りも軽く彼と覃さんのあとを追い掛けていった。
「青空」
「言いたいことは分かる。だから叱らないでくれ。宋は偽名をずっと使っていた。顔も違う。だから本当の名前を知らなかっただけだ。デコピンはいらんぞ」
額を手で庇った。
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