2271 / 3260

番外編 櫂さんに向けられる疑いの目

「どこかで会いませんでしたか?覃が櫂を見るなりそう声を掛けたんだ。櫂はカフェを開店させる前、バリスタの修行をしながら、いろんなところでアルバイトをしていたから、そのせいじゃないかって答えた」 「何か引っ掛かるの?」 「あぁ。喉に小骨が刺さったあの感じだ。どうも釈然としない。火急の用事があると言っていた癖に、急用を思い出したってまるで逃げるように帰っていったんだ」 櫂さんは人見知りで人付き合いが苦手だと話していたっけ。 「俺たちの目を欺くことは出来ても、ハチと鞠家と伊澤の目は誤魔化せない。三人とも人並み以上の嗅覚と才能と経験を持ってるからな」 太惺の額に浮かぶ汗を手で拭う彼。 「体が熱くて、まるで火の玉を抱っこしているみたいだ」 太惺は親指を咥えると、やがてうとうとと船を漕ぎはじめた。 「やっと寝てくれた。心望は?」 「お目目ぱっちりだよ」 「そうか。当分寝そうもないな」 太惺をそっと寝せると、今度は心望を縦に抱っこして、体を左右にゆらゆらと優しく揺すってくれた。

ともだちにシェアしよう!