2320 / 3282

番外編 度会さんの昔話

「未知さん、チカ、ジジィの昔話を聞いてくれるか?」 手の大きいチカちゃんが心をこめて握ってくれたおにぎりは陽葵の顔くらいあるんじゃないか、そのくらい特大サイズだった。度会さんはそれを片手で掴み豪快にムシャムシャと食べはじめた。 「K市はかつて暴力団の抗争が盛んで東北のシカゴと呼ばれていたんだ。その悪いイメージを払拭するため合唱に力を入れ、音楽の都、楽都《がくと》って呼ばれるようになった。三十年前、連続殺人事件が市内で起きた。一人暮らしをしていた若い女が帰宅直後に二人組の男に襲われ乱暴された挙げ句に毒殺されたんだ。チカが襲われた状況とまったく同じだ。使われた毒物か何か、なかなか特定することが出来なくて事件は暗礁に乗り上げ、そのまま迷宮入りした。ちょうどその頃、暴力団同士の抗争が勃発し、関係のない一般市民が大勢巻き込まれ亡くなっていたから世間の目はそっちに向けていたから、当時赤ん坊だった和真が誘拐された事件もさほど大きく取り上げられることはなかった」 チカちゃんが度会さんに湯呑み茶碗を差し出した。 「チカ、ありがとう」 「まさか親子で同じ手口で襲われるとはね。しかも使われた毒物はトリカブトだった。こんな偶然ってある?」 チカちゃんが真剣な眼差しで度会さんをじっと見つめた。

ともだちにシェアしよう!