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番外編 度会さんの昔話

「母親を殺した二人組の犯人を見つけるためデカになったと伊澤と鞠家から聞いた。薬剤師の資格を持ったデカなんてそうそういない。血の滲むような努力をしたはずだ」 「母が亡くなったあと、東京に住む祖父母に引き取られたの。近所にハルくんとノブくんが住んでいたから、アタシは一人じゃなかったし、寂しくなかった。二人ともアタシを実の弟のように可愛がってくれたもの。アタシの夢を叶えるため、ハルくんとノブくんと遼が出世払いで学費を貸してくれたから薬剤師の資格も取れたし、刑事にもなれた。三人には感謝してもしきれない。伊澤は新人だった頃、アタシの教育係だったの。その頃から、ネギちゃんとラブラブだったのよ」 チカちゃんが当時のことを思い出したのかぷぷっと噴き出した。 「"女"として自分を偽らず堂々と生きれる時代がいつか来る。それまでまわりに何を言われても聞き流せ。相手にするな。キャリアのてっぺんを取って、陰で悪く言う頭の固い連中を見返せ。ぎゃふんと言わせるんだ。伊澤に言われた言葉はここにちゃんと刻み込まれている」 手をグーに握ると胸にそっと押し当てた。 「ハルくんがこうして未知に甘えている姿を見ると、なぜかほっとするのよね。自分のことはいつも後回し。アタシや千里やまわりの人たちのために毎日、それこそ寝る時間を惜しんで走り回っていたから。ようやく安心出来る場所を見つけんだんだって」 彼がごほんとわざとらしく咳払いをすると寝返りを打った。

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