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番外編 彼と譲治さん

「昔はあんなに可愛かったのにな……」 ぼそぼそと彼が口にした。 「え?何?何?聞こえなーーい」 「だから……なんでもない」 ごほんとわざとらしく咳払いをすると、くるっと寝返りを打った。 「ねぇハルくん、気になって寝れないじゃん」 上半身を後ろに捻り、彼の大きな体を揺するチカちゃん。 「だんだんと千里と橘に似てきたなって。そう思っただけだ」 「口喧しくて五月蝿くて悪かったわね。妹を心配しない姉なんていないわよ」 チカちゃんが寝ている彼の肩をべしっと叩いた。 「いてぇーーよ。チカはばか力なんだ。頼むから少しは手加減してくれ」 彼が背を丸め悶絶した。 「あらあらまたいちゃついているの?本当に仲がいいわね。未知さん、たまには焼きもちを妬いて怒ったほうがいいわよ」 紫さんが白いガーゼで陽葵の額の汗をそっと静かに、優しく拭ってくれた。 「チカさん、遥琉は後悔してるのよ」 「何にですか?」 「シェドの顔を初めて見たとき、チカさんに似てるって直感で感じたそうよ。でも二人が兄弟なんてそんなあり得ない。荒唐無稽な話しだと先入観を持ちすぎて詮索しなかった。あの時、ちゃんと調べていればチカを危ない目を遇わせることはなかった。心に傷を負わせることはなかったって」 紫さんがチカちゃんをじっと見つめた。 「遥琉もあなたと同じで、妹が可愛くて仕方がないのよ。離れて暮らしているから余計に心配なのよ。照れて寝たフリをしているみたいだけど、それが遥琉のいいところよ。たまには褒めてあげてね。それとチカさん、実家に帰ってきたときくらいは遥琉お兄ちゃんにうんと甘えなさい」 「はい、紫さん。未知もありがとうね」 チカちゃんの目が微かに潤んでいた。

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