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番外編 彼と譲治さん
「事件が起きないと警察は動かない。警察はなにもしてくれないけど、菱沼組は親身になって話しを聞いてくれる。そんなことを耳にするたび、なんか虚しくなっちゃって。なんのために刑事になったのか、たまに分からなくなるの」
「伊澤さんみたいな刑事になりたい。ずっと伊澤さんの背中を追い掛けて来たんですよね」
「定年退職する日までマル暴の刑事でい続けるって聞いていたから、辞めたって聞いたときは、そりゃあもう天地が引っくり返るくらい驚いたわよ」
チカちゃんも橘さんみたくお茶をずずっと啜った。
何気に縁側に視線を向けたら、彼が譲治さんを宥めながら、覃さんとなにやら話し込んでいた。
さっきまでいなかったはずなのに。根岸さんと伊澤さんがいつの間にか彼の隣に座っていたから腰を抜かすくらいビックリした。
「あっぱとっぱしているから、てっきり俺たちの悪口を言ってるのかと思ったぞ」
「そんな罰当たりなことはしません」
「そうか?」
「そうです」
ひらひらとチカちゃんが手を振った。
「チカも見てみ。月が綺麗だぞ」
「アタシは花より団子派です」
「それは残念だな」
根岸さんがスマホを掲げると左右に揺らした。
「電話が繋がらないって誰かさんがごねているぞ」
「嘘~~やだ~~」
チカちゃんが弩にでも弾かれたように飛び上がった。
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