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番外編 まさに以心伝心
目をうるうるさせながら根岸さんをじぃーと見つめる心望。
「あ、そうだ」
根岸さんが伊澤さんのほうを見た。
「ハンカチか、ちょっと待ってろ」
まさに以心伝心。二人は言葉を交わさなくても、目と目を合わせるだけで相手が何を言いたいのか分かるみたいだった。
伊澤さんからハンカチを受け取ると、「いない~いない~ばぁー」と笑顔で心望に声を掛け、遊びはじめた。
さっきまで半べそをかいていたのに。しばらくするとキャキャと歓声をあげて笑い出した。
一方の太惺は、というと。
「男の子なんだ。血が出ているくらいで泣くな」
目からはぽろぽろと大粒の涙が零れていた。根岸さんみたく彼もばぁー遊びをはじめたけど、泣き止むどころか大きな声で泣き出した。
橘さんは顔色ひとつ変えず、今がチャンスとばかりに、二人の爪を手早く、そしてなるべく慎重に爪切り用のはさみで切ってくれた。
「たいくん、どうしたの?なんでないてるの?」
太惺の泣き声を聞いた一太が縁側をよじ登ってきた。
「言っとくがパパは泣かせてないからな」
「でもねパパ。パパがままたんのいうことをすなおにきいていれば、けがなんてしなかったでしょう?」
「それは、まぁ、そうだな」
「たいくん、お兄ちゃんっておいで」
彼の腕から太惺を抱き上げる一太。
「落とすなよ」
「ぼくがたいくんをおとすわけないでしょう」
慣れた手付きで太惺をあやす一太。するとものの数分で泣き止んだ。さすがお兄ちゃんだ。
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