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番外編 ヤスさんの生い立ち
「良かった。ヤスさん元気そうで」
「空元気だ。あぁでもしないとやっていられない。未知、手を貸してくれ」
「うん、いいよ」
「ありがとう」
「ヤスの本当の名前は海堂《かいどう》多來未《たくみ》だ」
手のひらに指で書いてくれた。
「遥琉さんくすぐったい」
手を引っ込めようとしたら、
「へぇ~~未知はここも感じるのか。いいこと知った」
愉しそうに笑いながら顔を覗き込まれ、ドキッとした。
「教祖が命名したこの名前がヤスは大嫌いだった。名前は親からもらう最初のプレゼントだ。うんうん唸りながら、悩みに悩んで子どもたちの名前を決めた。なんでその名前を付けたんだって子どもたちから聞かれたときちゃんと答えてやらないとな。ヤスは小学2年のとき、教祖様から名前を付けてもらった。意味は分からない。正直に答えて赤っ恥をかいたそうだ。産まれた時の写真、3才の時の写真、年長の時の写真のコピーを道徳で使うから学校に持っていかなければならない時があったそうだ。押入れや家中を探してもアルバムは見つからなかった。写真一枚すら見付からなかった。あったのは教祖が書いた本と分厚い辞書みたいな本が段ボールにいくつも詰め込まれていた。親に愛されていないことをヤスは知ったんだろう。別に学校に行かなくても親も先生もクラスメイトも誰も心配してくれない。だからヤスは学校に行かなくなった。公園や駅前通りをうろつくようになったんだ」
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