彼と橘さんと柚原さん。それに鞠家さんと蜂谷さんは、この短期間でオークポリマー、丸和電機、須釜製作所の社員、パート、アルバイト、派遣社員、会社に出入りする業者の顔と名前をすべて覚えたというからすごいとしか言いようがない。 だから橘さんは顔を見ただけですぐに誰か分かった。 ｢オークポリマーが業界シェアナンバー1だったのはもはや過去の話しです。教団の息のかかった外資系企業が買収に乗り出しています。オークポリマーの本社ビルが教団の日本支部と研修センターに変わる日もそう遠くはないと思いますよ」 ｢和真を逆恨みする連中がオークポリマーのなかにいてもおかしくないよね？」 ｢和真さんは年の離れた母違いの弟が成長し、会社を継ぐまでのただの飾りです。何かあれば責任を押し付けられ、社長であった父親の尻拭いばかりさせられる、名ばかりの執行役員でした。四季さんと結婚し、彼は１８０度変わりました。転職し須釜製作所の副社長になったのも、内助の功があったからこそです」 ｢じゃあ四季も未知と同じであげまんなのね」 ｢えぇ、そうかも知れません」 ｢恩を仇で返すなんて許さないわよ。渡辺さん聞いてた？」 え？渡辺さん？ いつから電話をしていたんだろう。全然気付かなかった。 ー人員整理のため首を切られたオークポリマーの元社員、連川だってだろう？菱沼組を敵に回してもろくなことねぇのにな。乾、おめさんも気を付けろよー そう言うと電話が切れた。