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番外編 良かったみんな無事で

「ちょうど戻ってきた園バスがクラクションを何度も慣らしてくれたんだが、全く効果なし。レンタカーが道を塞いでいるから道路は大渋滞だ。そしたら用務員の三瓶さんともう一人近所の人だと思うんだが、昇降口の脇に設置されてある消火栓を開けて、ホースを引っ張り取り出すと、彼らに向かって放水をはじめたんだ」 「三瓶さんが?」 「あぁ。驚いた」 三瓶さんは口数が少なくて、いつも帽子を深く被り、黙々と作業をしている。挨拶をしても頭を下げるだけ。言葉を交わしたことは数えるくらいしかない。 「本当は人に向けてはいけないんだが、非常事態だ。誰も三瓶さんたちを責める人はいない。こら、遥香。暴れるな」 彼に抱っこしてもらい、服にしがみついていた遥香。大好きなままたんの姿を見付けるなり手足をバタつかせた。 「ハルちゃんちょっと待ってて下さいね。未知さん、靴を履いて下さい」 「あ、そうだった。すっかり忘れていた。ママ、おっちょこちょいだよね」 靴を掃こうとしたら、 「ママ、ちょっとあしあげて」 一太がしゃがんで足の裏についた砂を手で払ってくれた。 「ちくちくしていたいでしょう」 「ありがとう一太」 一太は恥ずかしそうにもじもじしながら頷いた。 遥香は下ろしてもらうと橘さんにぎゅっと抱き付いた。 「ママとままたんのかおみたら、ハルちゃんおなかすいちゃった」 えへへと笑う遥香。橘さんは目に涙を浮かべながら、 「着替えをして、手を洗って、それからおやつにしましょうね」 遥香の頭をぽんぽんと撫でると、抱き上げてくれて。そのまま連れていってくれた。

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