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番外編 渋川さんと真山さん

渋川さんが厳しい表情ですっと立ち上がると、がらっと勢いよく障子を開けた。 「見ない顔だな。何者だ?」 猛禽類のような鋭い目付きでじろりと睨み付けた。 「ちょっといきなり開けないでよ!びっくりしてお茶を溢したじゃないの。火傷するところだったわよ」 「それはすまん。新しい家政婦か?」 「違います」 「どっかで見たことがあるんだが……思い出せないな」 「思い出さなくていいです。たいくん、ここちゃん、あっちちだよ。怖いおじちゃんいるからそこでストップだよ」 紗智さんと那和さんがすぐに駆け付けてくれた。 雑巾を握り締め、チカちゃんのところに行こうとしたら、 「未知に火傷をさせる訳にはいかない。俺が行くからいいよ」 彼に止められた。 「そういえば渋川はチカのその姿を初めて見るんだったな」 チカちゃんにハンカチを渡すと、雑巾で床を拭きながら渋川さんに話し掛けた。 「オヤジ、俺らがやります」 「会長に怒鳴られます」 若い衆が大慌てで駆け付けてきた。 「このくらい出来る。お前たちは自分の仕事をしろ」 彼は笑顔で返した。 渋川さんは頬に片手を当てて、うっとりとした表情で彼を見詰めていたから、声を掛けられたことに全く気付いていなかった。

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