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番外編 槇島さん
「おぃ、渋川!」
ドスのきいた低い声がして。きりっと引き締まった顔の男が姿を現した。髪を撫でつけ、切れ長の鋭い眼差しで渋川さんと真山さんを睨み付けた。年は遼成さんと同じくらいかな?すらりと立ったその姿に誂えたハイブランドのスーツははっと目を引くほとに映えていた。何気にちらっと足元を見ると、なぜか片方の靴下にだけ白い糸が一本見えた。
「旦那が浮気をしていないかあれで確認するらしい。やり方は違うが、笹原がよく千里にやっている」
「千里さんは笹原さん以外の男の人とは絶対に浮気なんかしません。千里さんは笹原さんを愛しているもの。断言出来ます」
「さすがは卯月の女房だ。噂に聞きし、まさに良妻賢母の鑑。なんて素晴らしいんだ」
男が手をぱちぱちと叩きながら愉しげに笑い出した。
「誰だ、悪妻だとほざいたのは」
「石山と楮山しかいないだろう。槙島《まきしま》、久し振りだな」
「ソイツが新しい倅か?」
「ソイツじゃない。青空《そら》という立派な名前がある。青空と呼んでやってくれ」
彼が柚原さんと蜂谷さんを伴い姿を見せた。
「俺と会長の前をまさか挨拶もなしで素通りするとはな。いい度胸をしているな」
「いるならいる、そう言ってくれないと分からないだろう。それに案内したのはそっちの舎弟だ。俺は悪くない」
槙島さんは開き直ると、にやりと不適な笑みを浮かべた。
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