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番外編 虫の知らせ

庭の掃き掃除をしていた譲治さん。竹ほうきの柄を握ったままもうかれこれ二十分近く微動だにせず塀をじっと凝視していた。 「譲治さんどうしたの?塀の上に誰かいるの?」 譲治さんを驚かせないように静かに声を掛けた。 「誰か迎えに来たんじゃない?」 「虫の知らせなんじゃない?」 オムツ交換が嫌で逃げ回る太惺と心望を追い掛けてきた紗智さんと那和さんがそんなことを口にした。 縁起でもない……と言い返そうとしたけど、あやみさんが最後に奈梛ちゃんに会いに来た時のように、譲治さんにゆかりのある人が最後に会いに来たのかも知れない。 「ねぇ紗智さん、那和さん、考えてみたら譲治さんのこともだけど、槙島さんや渋川さんたちのこと、僕、何も知らない。宇賀神組や梶山組や神政会のことも何も知らない」 「今は無理して知ろうとしなくてもいいと思う。組長の名前くらいは覚えておかなきゃ駄目だけど」 「他の男のことばかり考えていたら、ますますバーバに焼きもちを妬かれるよ」 「たいくん捕まえた~~!」 「ここちゃんも捕まえた~~!」 「たいくん暴れないの。落ちたら痛い痛いだよ」 紗智さんが太惺を、那和さんが心望をそれぞれ抱き上げてくれた。二人ともよほどオムツをはきたくないみたいで、手足をバタつかせ嫌だ嫌だとギャン泣きして紗智さんと那和さんをかなり困らせていた。

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