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番外編 虫の知らせ

「今日は重要な記念日なんだ。娘の……倅にとっては大事な妹の誕生日なんだ」 「妹さんってもしかして植物状態の?」 「あぁ。福島に連れて来れるなら連れて来たかった。お兄ちゃんたち想いのとても優しい子だった。今さら父親ヅラするなとまた怒られるな」 壱東さんは中学校しか出ていない。いろいろな仕事を転々とし、結婚を機に二種免許を取得し家族を養うためタクシーの運転手になり懸命に働いた。 「壱東さん、虫の知らせとかじゃないですよね?最後にお兄ちゃんに会いに来たとか……」 「昨日達治と電話で話したときはそんな話しはしていなかった」 そのときふいに戦慄が壱東さんの体を突き抜けた。 「嫌な予感がする」 壱東さんがポケットからスマホを取り出すも、手がかたかたと震えていて、 「あっ!」 スマホを落としそうになった。 「おっと、危ない」 長い腕が伸びてきて。彼が寸でのところでスマホをキャッチしてくれた。

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