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番外編譲治さんの悲しい過去

「たとえ血が繋がっていなくても譲治と達治の妹には変わりない。イチは譲治と達治と同じように娘も可愛がろうとしたが、小遣いをせびりに来る以外は、ウザいだのキモいだの臭いだの言って近寄ろうともしなかったし、口も聞こうとしなかった。イチはヤクザに身売りしてまで我が子を守ろうとしたのにな。まさに親の心子知らずだな」 「遥琉さん待って、壱東さんが身売りってどういうこと?」 「イチは千里に俺を買ってくれと直談判しに行ったんだよ。断るならこの場で腹を切ると。千里も鬼じゃない。茨木さんの知り合いならとイチを助けた」 そこで彼が言葉を止めた。 「風が出てきたな。雨が降るかもしれない。譲治、家の中に入れ」 彼がおいでと手招きすると譲治さんは首をぶんぶんと横に振った。 足元には丸い石が三つ並べられてあった。 「弟の声、聞きたいだろう?」 譲治さんはまたぶんぶんと顔を横に振った。 「また一人になる。かわいそう。側にいる」 「そこにはお前の妹は……」 いない、そうはっきり言おうとした彼の脇を青空さんが颯爽と通り過ぎていった。 「姐さんに心配をかけない。迷惑をかけない。姐さんの言うことは聞く。約束を守れないならここにはいれない。もとの暮らしに戻りたいか?」 「ヤだ」 「なら姐さんの言うことをちゃんと聞くんだ。俺は姐さんの笑った顔が見たいのに、お前のせいで全然見れない。これでも頭にきている。噴火させるな」 青空さんは裸足の譲治さんを有無いわさず肩にひょいと担ぐと、ムスッとしたままお風呂場に向かった。

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