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番外編 キスの催促
「譲治、オヤジと姐さんの邪魔だ。こっちに来い」
鍋山さんの声がして。どきっとして下を見ると土間の隅っこで体育座りする譲治さんと目が合いびっくりした。いつからここにいたんだろう。全然気付かなかった。
「こんな夜中になにしてんだ」
「壱東を待ってるらしい」
「イチは明日の夕方にならないと帰らないぞ」
「何度説明しても待っているの一点張りだ。言うことを聞かないから、覃を探しに行ったんだがどこにもいない」
「青空は?」
「ハチと一緒に風呂だ。こっちが恥ずかしくなるくらいイチャついてやがる」
「相変わらず仲がいいな。俺はこれから組事務所にいかなければならない。譲治、一緒に行くか?」
「卯月さんと未知さんも仲がいい」
「当たり前だ。心底未知に惚れているからな」
「オヤジが言ってた。男は美人に弱い。鼻の下を伸ばしころっといとも簡単に騙される。卯月さんにはそれが通用しないって」
「俺は未知しか眼中にないから他の女に一切興味はない。譲治、手を貸してやるから立つんだ」
彼が右手を差し出した。
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