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番外編 いちさん、なかないで
「ママ、しゃしんのひとだぁ~れ?」
「壱東さんの娘さんだよ。譲治さんの妹さん」
立ち止まり、遺影をじっと見つめる遥香。
「いちさんのむすめさんも、なやちゃんのおねえちゃんたちも、かなおにいちゃんのママも、やりたいことがいっぱいあったのにね。みんなおそらにいっちゃった。いちさんとじょーさん、さみしくてないてないかな?」
「涙が乾く暇がないくらい、たくさん泣いてたよ」
「ハルちゃん、なかないでっていちさんにいってくる。げんきだしてっていってくる」
遺影の前に座る壱東さんの隣にちょこんと座ると静かに手を合わせた。
「え?遥香ちゃん?」
予想外のことに壱東さんのほうが驚いていた。
「いちさんのむすめさんきれいだね」
「だろう。自慢の娘だからな」
「ヘェ~~のぞみさんっていうんだ」
「え?なんでその名前を………」
壱東さんがぎくりとした。
「だって、ほら」
遥香が遺影を指差した。
「のぞみさんね、いちさんに、なかないでね。げんきだしてねっていってるよ。それと、ありがとうって。おにいちゃんたちをおねがいって」
「そうか。譲治だけでなく遥香ちゃんにものぞみが見えたか。ありがとうはこっちの台詞だ。たく、親より先に逝きやがって。親不孝な娘だ」
壱東さんが肩を震わせ泣き出した。
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