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番外編いちさん、なかないで

「いちさん、なかないで。のぞみさん、おそらにいけなくなっちゃうよ」 「そうだよな。泣いている場合じゃないよな」 手の甲で涙をごしごしと拭う壱東さんを見た遥香はポケットからハンカチを取り出し、 「どーぞ」 と言いながら壱東さんに渡した。 「ありがとう遥香ちゃん。なんか使うのが勿体ないな」 「だいじょうぶだよ。ねぇ、いちさん。じょーさんいないって、さがしてるよ」 「譲治か?あの風来坊は、肝心なときにいつもいないからな。困ったお兄ちゃんだよな」 鼻をずずっと啜りながらハンカチで涙を拭いた。 「のぞみ、譲治のことは心配するな。たとえ俺が死んでも、卯月さんと鍋山さんが責任をもって面倒をみてくれると約束してくれた。それに覃という旦那候補もいる」 「いちさん、だめだよ」 遥香が頬っぺたをこれでもかと膨らませた。 「ひまちゃんがおっきくなるまで、いちさんはいなきゃだめ」 「ちょっと遥香……」 口が達者な娘にこれほどヒヤヒヤするとは。お説教がはじまる前に止めなきゃ。行こうとしたら、 「止めなくていい」 彼に腕を掴まれた。

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