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番外編 いちさん、なかないで

覃さんがふらりと姿を現した。 「マイハニー、ジョー。土産を買ってきたぞ」 紙袋を掲げた。 「もしかしてお呼びじゃなかったか?」 ただならない空気を察し、目をぱちくりさせる覃さん。 「あのな、覃……」 「あっ、思い出した。すっかり忘れていた。すまん。悪気はなかった。許せ」 バツが悪そうに苦笑いを浮かべ頭を掻いた。 「いやな、ジョーが妹にご当地旨いものを食べさせてやりたかったって、二日くらい前に言ってたんだよ。ご当地旨いものが何か全然分からなくて。伊澤に睨まれながらも、根岸に教えてもらった」 覃さんが紙袋を壱東さんに差し出した。 「供えてくれ」 「あ、ありがとう」 びくびくしながらも紙袋を受け取る壱東さん。 「卯月。はやく時間を巻き戻せ」 「は?」 覃さんが突然突拍子もないことを言い出したものだから、彼も壱東さんもぽかーんとしていた。 遥香はというと、不思議そうに首を傾げて二人を見ていた。 「俺は万能の神じゃねぇぞ。生身の人間だぞ」 「おかしいな。ボスが卯月は不死身だ。何でも出来る男だ。出来ないことはない男だ。と、言ってたぞ」 「覃、地竜に伝えてくれ。その言葉、そっくり返すってな。もし時間を巻き戻せるなら、のぞみが死ぬ前にイチと仲直りさせてやりたかったよ」 彼が遺影をじっと見つめた。

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