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番外編 のぞみさん、ほんとうはもっと生きたかったと思う
ー古参の幹部たちにね、笹原は半人前じゃない。もう一人前だ。いい加減、本名を堂々と名乗ったらどうだ。そう言われたのよ。もう隠す必要はないって。お兄ちゃんにそのことを言おうとしたら笹原じゃなく、名前で呼んでもらったでしょう?だからすごく嬉しかったみたい。やだ、ちょっと、変なところにチューしないで。ダーリン、待って……!!ー
キュキュとかサラサラとか、色っぽい衣擦れの音が聞こえてきた。
「ずいぶんとまぁ盛り上がっているみたいだな」
ー凪と碧人が寝ている時しかいちゃつけないだろう。それは兄貴も同じはずだー
「蒼生、頼むから俺の妹を泣かせるなよ」
ー兄貴こそ、俺の可愛い妹をあまり泣かせないでくれよー
「お前に言われなくても分かっている」
ぶちっと電話が一方的に切れた。
「あ、そうだ!」
彼が声を上げ、がっくりと肩をおとした。
「どうしたの?」
「肝心なことを言い忘れた」
すぐにリダイアルを押そうとしたけど、
「終わったころを見計らって電話をしたほうが良さそうだな」
苦笑いを浮かべ、スマホをポケットにしまった。
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