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番外編 狼少年
「たいくん、ここちゃん、おじちゃんが面白い話しを聞かせてやる。狼少年の話しだ」
あ、この声は……。
「なんだ鷲崎まで来たのか?」
「来て悪いか。愛する妻を迎えに来たんだよ。久し振りだな、渡辺。相変わらずしけたツラしやがって」
「事件が立て込んでいて、休んでいる暇がないくらい忙しいんだ」
「無理すんな。年を考えろ。定年まであともう少しだろう。体が持たないぞ。そういえばさっきいとこに会ったぞ。後ろ姿が渡辺にそっくりだから間違えるところだった」
「マル暴のデカになりたいんだと。さしで卯月さんらと呑みたいらしい」
「へぇ~~」
彼の話しだと、渡辺さんのいとこも渡辺さんで、交番勤務をしているみたいだった。僕は会ったことがないから分からないけど、渡辺さんに顔がとてもよく似ているみたい。
「よし、ここに座るか。たいくん、ここちゃん、おじちゃんっておいで」
鷲崎さんは寝ている鉄将くんの前に胡座をかいて座ると、右膝の上に太惺を、左膝の上に心望を乗せると、昔、昔、あるところに……昔話をはじめた。
鉄将くんは寝てはいない。寝たふりをしているだけだ。
鷲崎さんもそのことにすぐに気付いたみたいだった。
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