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番外編 狼少年
「いい面構えだな。怒った顔が親父にそっくりだな」
彼のその言葉に動揺したのか、遠山さんが脚立から落ちそうになった。
「俺も昔、やない金融という消費者金融を経営していたんだ。遠山、お前の娘婿みたく法外な利息で金を貸すこともしなかったし、違法な取り立てもしなかった。金が返せないからと債務者の女房や娘を慰みものにしたり、薬漬けにし、挙げ句には夜の街に売り飛ばす。そんな人の道に外れるような真似は絶対にしなかったぞ」
遠山さんが首に巻いたタオルで額の汗を拭いながらゆっくりと下りてきた。
「さすがは昇龍会の若頭さんだ。なんでもお見通しなんですね」
「最初に気付いたのはさっきここにいた鷲崎組の組長の鷲崎だ。八年前、彼に助けを求めた妊婦がいたんだ。父親が椎根から金を借り返せなくなり、椎根は当時まだ十六歳だった娘を乱暴し、クスリと暴力で支配し、売春させて、クスリの運び屋をやらせていた。鷲崎も鬼じゃないからな。その娘とお腹の子を助けた。その娘の子どもが双子じゃないかってくらいに鉄将によく似ているそうだ。そりゃあそうだ。三ヶ月違いで生まれた実の兄弟だもんな」
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